概要
- Las Vegas Stripのスロットマシン は還元率93%だが、 Kalshi予測市場 では期待値43%の賭けも多発
- 長期的な損失 を受け入れる参加者が多数存在
- マーケット効率性仮説 と現実のギャップを検証
- Taker(流動性消費者)からMaker(流動性供給者)への富の移転 が顕著
- YES/NO非対称性 やカテゴリごとの違いも明らかに
Kalshi予測市場におけるロングショット・バイアスと富の移転
- Las Vegas Stripの スロットマシンの還元率 は約93%、ギャンブル界でも最悪水準
- Kalshi では、期待値43%という極端なロングショット契約で大量の資金が投じられる傾向
- 参加者は カジノスロットより不利な期待値 で自発的に賭けを行う現象
- 効率的市場仮説 によれば、価格は情報を完全に反映するはず
- 予測市場は「 純粋な効率性のテスト場」であり、$1 or $0の明確な決着
- 価格5セントは5%の確率を意味し、理論上は実際の発生率と一致すべき
- 7,210万件、182.6億ドル規模 の取引データを分析
- 集団の精度は「合理的行動」よりも「 エラーの刈り取りメカニズム」に依存
- 衝動的なTaker が「YES」へのプレミアムを払い、 Maker が「楽観税」を獲得
- スポーツ・エンタメ分野 で効果顕著、 金融分野 では効率性が高い
本論文の貢献
- Kalshiにおけるロングショット・バイアス の存在と規模を定量化
- マーケットロール別のリターン分解 でTaker→Makerへの富の移転を可視化
- YES/NO非対称性 とTakerの「YES」偏重による損失拡大を特定
予測市場とKalshiの概要
- 予測市場は「 現実の事象」に対して$1 or $0で決着するバイナリ契約を取引
- 価格(1〜99セント)は 確率の代理値
- 株式市場と異なり ゼロサム構造、利益と損失が完全一致
- Kalshi は2021年にCFTC規制下で米国初の予測市場として誕生
- 当初は経済・天気データ中心、2024年の政治契約解禁で急成長
- 2025年にはスポーツ市場も追加、取引量の72%がスポーツ関連
- データ収集は 2025-11-25 17:00 ET で終了、Q4は未完
データと分析手法
- GitHub公開のデータセット :768万市場・7,210万取引
- 各取引は 価格・Takerサイド・契約数・タイムスタンプ を記録
- 各市場は 解決結果・カテゴリ 付き
- Taker/Maker の役割は注文の流動性消費/供給で判別
- 例:taker_side=yes, 10セント→TakerがYESを10¢で購入、MakerはNOを90¢で購入
- コストベース(Cb) で全取引を正規化、YES/NO間の非対称性も比較可能
- ミスプライシング(δS) :実際の勝率と価格(確率)の乖離を計測
- グロス超過リターン(ri) :コスト比でのリターン(手数料控除前)
- 分析対象は 解決済み市場のみ、取引量$100未満の市場は除外
- 全価格帯でデータが充実 (最も少ない81-90¢でも580万件)
Kalshiにおけるロングショット・バイアス
- ロングショット・バイアス は低確率オッズの過大評価傾向
- Kalshiでも 5セント契約の勝率は4.18% (-16.36%のミスプライス)
- 95セント契約は95.83%の勝率、高価格帯で実力通り
- 20セント未満は期待値割れ、80セント超は期待値超過 の一貫した傾向
- 予測市場全体は高効率 だが、テール部分でロングショット・バイアスが顕在化
- ゼロサム市場特有の疑問 :損失を誰が吸収するのか?
Maker-Taker間の富の移転
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Maker :リミット注文で流動性供給
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Taker :成行注文で流動性消費
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役割別リターンは 明確な非対称性 を示す
| 役割 | 平均超過リターン | 95%信頼区間 | |--------|----------------|---------------------| | Taker | -1.12% | [-1.13%, -1.11%] | | Maker | +1.12% | [+1.11%, +1.13%] |
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端価格(1セント) でTakerの勝率は0.43%(-57%ミスプライス)、Makerは1.57%(+57%)
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50セント ではミスプライスが縮小(Taker-2.65%、Maker+2.66%)
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99価格帯中80価格帯 でTakerは負の超過リターン、Makerは正の超過リターン
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市場全体の非効率性はTakerに集中、Makerが利益を吸収
スプレッド補償だけか?
- Makerの利益は 単なるスプレッド獲得 だけでは説明困難
- YES/NOどちらを買うかでリターンに差
- NOを買うMakerの方が59%の確率でYESより高リターン
- YES買い+0.77pp、NO買い+1.25pp(差分0.47pp、効果量小だが一貫)
- カテゴリ別での差も大きい
- YES/NOどちらを買うかでリターンに差
カテゴリ別のMaker-Takerギャップ
| カテゴリ | Takerリターン | Makerリターン | ギャップ | 取引数 | |----------------|--------------|--------------|---------|----------| | Sports | -1.11% | +1.12% | 2.23pp | 4,360万 | | Politics | -0.51% | +0.51% | 1.02pp | 490万 | | Crypto | -1.34% | +1.34% | 2.69pp | 670万 | | Finance | -0.08% | +0.08% | 0.17pp | 440万 | | Weather | -1.29% | +1.29% | 2.57pp | 440万 | | Entertainment | -2.40% | +2.40% | 4.79pp | 150万 | | Media | -3.64% | +3.64% | 7.28pp | 60万 | | World Events | -3.66% | +3.66% | 7.32pp | 20万 |
- Financeは極めて効率的 (ギャップ0.17pp、Taker損失0.08%)
- World Events/Media はギャップ7pp超
- Sports は取引量最大(43.6M)、ギャップ2.23ppでも6.1BドルのTaker損失
時系列での進化
- 初期(2021-2023)は Takerが勝ち、Makerが負ける 構造
- 2024 Q2以降、 CFTC訴訟勝利・選挙市場開放→取引量急増
- プロのマーケットメイカー流入→Maker優位へ転換
- ギャップは-2.9ppから+2.5ppへ、5.3ppの大転換
- Takerのロングショット志向は変わらず、むしろ中間価格帯へのシフト
- 新規Makerが全価格帯で効率的に価値を抽出
YES/NO非対称性とTakerの選好
- Maker-Taker分解で 損失の担い手は特定 できるが、なぜTakerが損失を出し続けるかが課題
- TakerはYES(肯定的結果)に強い選好 を持つ傾向
- 理論上は1セントYESと1セントNOで期待値は対称 だが、実データでは非対称
- 1セントYESは期待値-41%(資金の半分近く失う)
- 1セントNOは期待値+57%(YESの逆側でMakerが利益を享受)
このように、 予測市場Kalshi では ロングショット・バイアス と YES志向 による TakerからMakerへの富の構造的移転 が観察される。特に スポーツ・エンタメ分野 で顕著だが、 金融分野 では高効率性が維持されている。 市場の進化 と 参加者の質の変化 が、富の移転構造と市場効率性の変動を生み出している。