概要
- The Body Keeps the Score (Bessel van der Kolk著)は、世界的に有名な精神科医によるトラウマ研究書
- 本書はトラウマが脳や身体に長期的な変化をもたらすと主張
- しかし、専門家からは科学的根拠の乏しさや誤解を招く表現について批判が多い
- Dr. Michael Scheeringaによる反論書 The Body Does Not Keep the Score が登場
- トラウマと脳・身体の因果関係についての議論が続く現状
『The Body Keeps the Score』のインパクトと主張
- Bessel van der Kolk は「世界で最も有名な現役精神科医」として知られる
- 本書は Amazonレビュー数79,898件、37言語に翻訳、300万部以上の売上実績
- New York Times ノンフィクション部門で248週間連続ベストセラー入り
- トラウマが記憶の有無に関わらず 身体や脳に長期的な変化 を引き起こすと主張
- PTSDだけでなく、ほぼ全ての人がトラウマを持つ可能性を強調
- トラウマは「国民の健康に対する最大の脅威」と位置付け
- PTSDの議論は兵士や事故被害者などに集中しがちだが、実際は 公衆衛生上の大きな課題
トラウマの定義と広がる議論
- van der Kolkは「トラウマは非常に一般的」とBig Thinkで発言
- 「あなたを圧倒するほど動揺させる出来事」がトラウマの定義
- 2020年のメタ分析では 22%の新生児が臍帯巻絡 を経験
- Dave Aspreyは出生時の臍帯巻絡がPTSDの原因と主張
- しかし、1973年の論文では長期的な心理的影響は認められず
- 酸素欠乏がなければPTSDには繋がらないと結論
- Aspreyの主張の根拠はvan der Kolkの理論に由来する可能性
科学的根拠の検証と批判
- 本書は 多数の研究や引用 で信頼性を演出
- Tulane大学のDr. Michael Scheeringaは、科学的誤りや誇張が多いと指摘
- 『The Body Does Not Keep the Score』でvan der Kolkの主張を体系的に反論
- 大学の教科書や推薦図書としても広く採用されている現状
- Scheeringaはvan der Kolkの主張が 科学的根拠に乏しい ことを強調
トラウマと脳・身体の因果関係
- van der Kolkは 脳や身体の異常がトラウマで生じる と主張
- しかし、多くの研究は 横断的研究(スナップショット) で、因果関係を証明できない
- 例:脳の島皮質(insula)の活動異常
- 21件中20件が横断的研究
- 活動量が増加・減少・変化なしなど、結果が一貫しない
- 唯一の前後比較研究ではトラウマ後も活動変化は認められなかった
- 同様に、 扁桃体(amygdala) の異常も主張されるが、決定的証拠は乏しい
生理学的・ホルモン的要因の可能性
- PTSD発症には テストステロンなどのホルモンバランス が影響
- 低テストステロン値がPTSD発症リスクを高める
- 男性より女性のPTSD発症率が高い理由の一因
- 狩猟採集民(Turkana戦士)の研究では、同じ戦闘体験でもPTSD発症率が低い
- 体質や食生活(炎症性の西洋型食事)が影響する可能性
- 「 不健康な体質がトラウマを受けやすくする」という逆の因果関係の指摘
まとめと今後の課題
- van der Kolkの理論は 大衆的影響力 を持ちつつ、科学的には多くの批判が存在
- トラウマと脳・身体の関係は 一方向的な因果関係 とは限らない
- Scheeringaの反論書 は大学教育や議論の場で併読が推奨される
- 今後は 縦断的研究や多面的アプローチ による実証が求められる