概要
- Toronto のダウンタウンは世界有数の商業集積地
- 地下歩行者ネットワーク Path の独自性と発展経緯
- 地下道が都市交通や経済に与える影響
- 他都市で同様のシステムが少ない理由の考察
- 歩行者メトロが都市交通課題解決に果たす可能性
トロントのダウンタウンと交通ネットワーク
- Toronto のダウンタウンは、二つの地下鉄路線、八つの郊外鉄道、広範なバス網、一つの高速道路、北米最大級の路面電車網が集結する交通の要所
- 毎日数十万人の通勤者が十九世紀の街路沿いの高層ビル群へ流入
- ピーク時には歩道や道路が 混雑、自転車・歩行者・自動車・路面電車・バスが限られた空間を奪い合う状況
- 伝統的な放射型交通システム特有の、狭いエリアへの 人流集中
- 歩行者は信号待ちで毎ブロックごとに進行が妨げられる現実
Path:トロント独自の地下歩行者ネットワーク
- 二十世紀初頭、 企業 が自社オフィスと地下鉄駅を結ぶ地下通路を整備し始める
- 冬季の寒さや地上の混雑回避のため、 通勤者の利便性向上 が目的
- 商業施設が地下通路に併設され、ネットワーク効果が発生
- 新築オフィスビルも Path への接続が常態化し、歩行者メトロ的なネットワークが誕生
- 現在、 30km以上 に及ぶネットワークが都心の主要駅やオフィスビルを結ぶ
Pathの運営構造と特徴
- Pathは 35区画 に分割され、それぞれが元の企業の子孫等によって個別管理
- 多くの枝路はオフィスビルのロビーで終点となり、 一般向けメトロ入口 として機能
- 行政の規制は限定的で、統一的な運営主体は存在しない
- 一般的な暗く不衛生な地下道とは異なり、 高級ショッピングモール のような装飾と清潔さ
- 民間警備が多数巡回し、治安も維持
- パンデミック以降は商業利用が減少したが、 通勤インフラ としては依然重要
地下歩行者ネットワークへの評価と都市空間への影響
- 都市計画家は地下道が 地上の街路活気を奪う と懸念
- しかしTorontoのような高密度都市では、地上も依然として 賑わい を維持
- Pathの存在が自転車・バス・路面電車・自動車の空間確保にも寄与
- 駅からオフィスまでの移動時間短縮で、公共交通の利便性向上
- 放射型交通システム との相性が良く、全体として都市交通にプラス
Pathの経済的・構造的独自性
- Pathは 統一主体による計画なし で統合ネットワークを形成、極めて珍しい事例
- 地権者個々が自腹でインフラ整備し、後続の地権者は既存ネットワークの恩恵を享受
- 鉄道など他の交通インフラと異なり、 初期導入障壁が低い のが特徴
- 歩行者専用通路は 輸送可能人数の上限が高く、追加区画で既存部分が混雑しにくい
- 道路や鉄道のように 中央幹線のボトルネック が生じにくい
他都市でPath型ネットワークが少ない理由
- 道路や鉄道は 統一的な計画と運営が必須 だが、歩行者ネットワークは分割的発展が可能
- Montreal、Tokyo、Osaka、Seoul、Hong Kong、Singapore、Houstonなどにも類似システム
- 欧州ではHelsinki、Stockholm、Munichなどが該当
- しかし 歩行者メトロ が存在する都市は依然として少数
- Manhattan、Boston、Shanghai、Vancouver、Paris、City of Londonなどで未発展の理由は未解明
- 経済的合理性の違い
- 地下空間の既存インフラ混雑
- 規制上の制約などが要因の可能性
歩行者メトロの今後と都市交通への示唆
- 十九世紀型のダウンタウンは現代でも 都市的価値が高い
- 自動車や近代主義的都市計画、行政不備により失われなければ、依然として重要な都市形態
- こうした都市の交通課題に対して、 歩行者メトロ が解決策となり得る可能性
- 他都市での導入・発展の余地と課題の検討が今後のテーマ
著者紹介
- Samuelは Works in Progress のエディターで都市論が専門
- これまでに「The beauty of concrete」「Making architecture easy」「Against the survival of the prettiest」「In praise of pastiche」等を執筆